連絡が途切れた夜ほど自分がきれいになる不思議なスキンケア時間の話

ぼんやりする女性
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目次

LINE来ない夜にだけ本気で肌を甘やかす人の静かなナイトルーティンと心の整え方

返信を確認する女性

窓の外が、いちばん静かになる時間がある。
救急車のサイレンが遠くでひとつ鳴って、あとはもう、冷蔵庫の低い唸りと、加湿器が「しゅ…」って息をする音だけ。

夜の九時を少し過ぎたあたり。部屋の照明をいつもより一段だけ暗くして、ソファじゃなくて床に座る。ラグの毛が冬仕様で、素足にちょっとだけチクチクする。それが妙に現実的で、今日の「うまくいかなかったこと」も、急に形を持つ。

スマホはテーブルの上で、画面を伏せたまま。
通知が来たら、振動でわかるように。来なければ、来ないままでいいように。
……って言いながら、たぶん私は、来てほしい側の人間だ。

LINEが来ない夜って、なんだか胃のあたりが落ち着かない。
別に、重要な用件があるわけじゃない。仕事の連絡でもない。家族からでもない。
ただ、誰かの「今なにしてる?」とか、「今日どうだった?」みたいな、軽い一行。
それが来ないだけで、頭の中がじわじわと騒がしくなるの、なんでだろう。

今日の昼、駅のホームで見かけたカップルの距離が近すぎて、目のやり場に困った。
コンビニで買ったサラダチキンは、レジの人が無言で袋に入れて、私は「ありがとうございます」が少しだけ遅れた。
会社では、ふとした雑談の輪に入れなくて、笑うタイミングを逃した。
「別に大丈夫」って顔を作るのは慣れているはずなのに、帰宅してドアを閉めた瞬間、肩がストンと落ちた。

それで、夜。

LINEが来ない。
既読もつかない。もちろん未読もない。
画面は、静かすぎる。

私の中のどこかが、こう言う。
「今日は、私の価値が低い日だったのかも」って。
極端なのはわかってる。たった一晩、通知が鳴らないだけで。
でも、こういう極端な声って、疲れてる夜ほど大きい。

たぶん私は、誰かからの一言で、自分を保温したい。
“あなたは今日もここにいる”って確認をしたい。
それを、連絡の有無に委ねちゃってる時点で、ちょっと危ない。
わかっているのに、やめられない。
わかってるのに、確認したくなる。

そんな夜ほど、美容が捗る。

……いや、捗るというより、逃げ道として美容が優秀すぎる。
肌は裏切らない、ってよく言うけど、私はあれを半分だけ信じてる。
だって肌は裏切るときは盛大に裏切る。寝不足の翌朝、毛穴が「おはよう」って自己主張してくるし、チョコを食べた次の日にニキビが出ると「昨日の私、余計なことしたな」って反省会が始まる。
でも、それでも。
肌は、やった分だけ「なんとなく」返してくる。
その“なんとなく”が、夜の私にはちょうどいい。

洗面所の鏡の前に立つ。
電気をつけると顔がはっきり見えて、ちょっと嫌になるから、間接照明のまま。
クレンジングを手に取って、指先で広げると、柑橘っぽい匂いがふわっと立つ。
今日は誰とも会わないのに、メイクを落とす。
会う予定がないからこそ、丁寧に落とす。
矛盾してるのに、それが救いになる。

顔に触れると、今日の自分がそこにいる。
誰かの返信がなくても、ここに皮膚があって、体温がある。
今さら気づくみたいに、それが少し嬉しい。

LINEのことを調べてみると、未読・既読の仕組みや通知の設定、読んだのに返信できない心理まで、いろんな言葉で説明されている。
「返信できないのは忙しいから」とか、「文字を考えるのが苦手だから」とか。
それらは全部正しいのに、私の夜の不安は、そんな論理じゃ動いてくれない。
不安って、ちゃんとした理由の顔をしてない。
むしろ、理由がないほど強い。

美容は、理由がある。
今の季節は乾燥するから、とか。
エアコンで水分が奪われるから、とか。
寝ている間に肌のバリアが整いやすいから、とか。
夜は肌の再生に関わるホルモンが分泌されやすいと言われている、とか。
そういう「らしい」が並ぶと、私の手は動く。
理由があるから、やれる。
理由があるから、今夜の自分に説明できる。

クレンジングの後、ぬるま湯で流す。
タオルで押さえるみたいに水気を取る。
化粧水を手のひらに出して、顔全体にそっと置く。
頬のあたりがひんやりして、少しだけ息が深くなる。

LINEが来ない夜は、時間が余る。
だから、工程が増える。
普段なら「まあいいか」で終わらせるパックを、今日はする。
冷蔵庫で冷やしていたシートマスクを広げると、ぴたっと肌に貼りついて、目の下だけ世界が静かになる。
スマホの画面より、こっちのほうが確実に“今”がある。

ここで、ふと考える。
私は、誰かに「返信がほしい」って思うと同時に、誰かの返信を後回しにしたこともある。
仕事帰りでヘトヘトで、返す言葉が見つからなくて。
「落ち着いたら返そう」って思って、そのまま寝落ちして。
翌朝、既読がついたままのトークを見て、胸がきゅっとした。
返信できなかった私にも事情があったのに、相手にとっては“来ない”だった。
そういう当たり前を、都合よく忘れて、今日の私は“来ない側”にだけ傷ついてる。

パックの上から指先で軽く押さえる。
シートの端が少し浮いて、空気が入る。
それを直す動作が、妙に丁寧で、妙に優しい。
誰にも向けられない優しさを、今夜は自分の顔に向けている気がする。

LINE来ない夜ほど美容が捗る

ぼんやりする女性

自分の部屋って、残酷なくらい「自分だけ」が広がる。
誰の足音もない。誰の咳払いもない。誰の生活音も混ざらない。
その代わり、私の思考だけがよく響く。

「なんで返事こないんだろう」
「私、何か変なこと言った?」
「そもそも、私って必要とされてる?」
「このまま一人で歳を重ねるのかな」

一人暮らしの夜って、未来の不安が、冷たい水みたいに首筋に落ちてくる。
跳ねるほどじゃないのに、ずっとそこにいる。
これが冬の乾燥みたいに、目に見えないのがまた厄介。

だから私は、美容に逃げる。
逃げる、って書くと悪いことみたいだけど、たぶん違う。
“逃げ先が、ちゃんと優しい”って、すごいことだと思う。
お酒に逃げたら翌朝むくむし、夜更かしに逃げたら肌が荒れるし、甘いものに逃げたら自己嫌悪のセットが付いてくる。
でも美容は、いちおう、私を整える方向に向いている。
少なくとも「明日の私」をほんの少しマシにしてくれる可能性がある。

それに、美容は「待たなくていい」。
誰かの返信を待つのは、相手の都合に自分の気持ちを預けること。
預けた分だけ、返ってくるまで落ち着かない。
でも、美容は自分の手で進められる。
塗ればいい。重ねればいい。温めればいい。
自分の都合で、自分の肌に触れられる。
この“主体性”が、夜の私を救う。

パックを外すと、頬がしっとりしている。
すぐ乾くのも知ってる。
でもこの数分のしっとりが、なんだか小さな勝利みたいに思える。
誰にも褒められない勝利。
でも、だからこそ、ちゃんと自分のものだ。

そのあと、乳液。
オイル。
目元のクリーム。
首にも伸ばして、ついでに手の甲にも塗る。
手の甲って、意外と年齢が出るらしい。
そういう情報は、刺さるときと刺さらないときがある。
今日は刺さる日だ。
刺さるから、塗る。
塗ることで「私はまだ何かできる」と思える。
たぶん私は、老いが怖いんじゃなくて、“手をかけられなくなる自分”が怖い。

スマホを見る。
相変わらず静か。
通知はない。
それでもさっきより、胸の中が少しだけ平らになってる。

返事がない=嫌われた、じゃないのに

頭ではわかってる。
返事がないのは、忙しいだけかもしれない。
スマホを見られない状況かもしれない。
返す内容を考えているだけかもしれない。
もしくは、単純に寝てるかもしれない。
そういう可能性を並べると、私は少し安心する。
でも同時に、こうも思う。
「安心するために、可能性を並べてる自分」が、ちょっとしんどい。

LINEが来ない夜は、想像力が暴走する。
良い想像じゃなくて、悪い想像のほうへ。
脳って、どうしてこういうときだけ働き者なんだろう。
“嫌われたかもしれない”の道を、最短距離で走っていく。
私はその走り方を、たぶん何年も練習してきた。

だから、美容でブレーキをかける。
肌に触れていると、思考がいったん手元に戻る。
自分の顔って、こんな触感だったんだ、って。
頬のふくらみとか、顎のラインとか、眉間の硬さとか。
自分の現実が、手のひらに収まる。
その瞬間だけ、未来の不安が遠のく。

たとえば今夜の、小さな儀式。

・スマホを伏せる(たまに失敗してまた見てしまう)
・洗面所の照明を少し暗めにする
・香りのあるクレンジングを使う(気分が変わる)
・パックは「もったいない日」ほど使う
・最後にハンドクリームを塗って、手を握る

こういうのって、誰かに見せるためじゃない。
「今日の私は、今日の私を放っておかなかった」って証拠のため。
たぶん私は、返事が欲しいんじゃなくて、放っておかれたくないんだと思う。
相手にも、自分にも。

スキンケアを終えたあと、鏡を見る。
すごく綺麗になったわけじゃない。
毛穴もある。クマもある。
でも、肌の表面にうっすらとツヤがある。
ツヤって、ちょっとズルい。
それだけで「大丈夫そう」に見えてしまう。
大丈夫じゃない夜ほど、ツヤが欲しくなる。

寝る前に、またスマホを見る。
やっぱり通知はない。
でも、もうさっきみたいに「価値が低い日だった」とは思わない。
思わない……と言い切るのは嘘で、少しは思う。
ただ、その声が、さっきより小さい。

私は今日、誰かの一行で救われなかったけど、化粧水のひんやりで救われた。
それって、なんだか寂しいのか、強いのか、まだわからない。
たぶん両方。

明日、LINEが来たら、私はまた普通に嬉しいと思う。
来なかったら、また美容が捗るかもしれない。
それって、いいのか悪いのか、まだ答えは出ない。

ただひとつだけ、今夜の私が知っているのは、
「待っている時間ほど、自分に触れたほうがやさしい」ってこと。

……ねえ、私がいちばん欲しかった返信って、誰からのものだったんだろう。

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