晴れの日スーツを探してしまう朝

今朝、駅までの道で、いつもより少しだけ空気が軽くて、でもその軽さが逆に落ち着かなくて、私はコンビニの前で一回立ち止まりました。冬の終わりの匂いがして、マフラーの中に呼吸がこもって、スマホの画面には「来週の式典、服装どうする?」という同僚からの短いメッセージが浮かんでいました。
——式典。晴れの日。
その単語が出てきた瞬間、頭の中が勝手に「正解探し」のモードに切り替わるの、ほんとうに厄介です。
私はいま30歳で一人暮らしで、仕事もそれなりに慣れて、毎日が劇的に変わるわけじゃないのに、たまに訪れる“晴れの日”だけは、生活のリズムを乱してくる。
卒業式や入学式みたいに親になる側じゃなくても、表彰式やセミナー登壇、会社の式典、ちょっとしたパーティー、親戚の集まり、誰かの節目を祝う場……「いつも通りの私」で行くと浮く気がして、かといって「ちゃんとしよう」とすると私じゃなくなる気がして、どちらにも寄れずに、真ん中で足が止まる。
そして今日は、その“足が止まる感じ”を、ちゃんと見てしまった日でした。
(ここから先、なんとなく自分の話になるけど、日記じゃなくて、たぶんあなたにも似た瞬間があると思う。)
①「ちゃんとした服」を着ると、声まで固くなる
同僚からのメッセージに、私は「無難にネイビーかな」と返そうとして、なぜか指が止まりました。ネイビーが無難なのはわかってる。検索しても、店頭でも、だいたい“答え”はネイビーに寄る。でも、無難って、誰にとって無難なんだろう。
その問いが浮かんだ瞬間、私の中で一番イヤな感情が顔を出しました。
それは、服が原因で「人にどう見られるか」を必要以上に気にして、結果として、人との距離まで固くしてしまう自分へのうんざりです。
“晴れの日スーツ”って、たぶん本来は誰かの節目を祝うためのものなのに、私はいつも「私が失敗しないための鎧」みたいに扱ってしまう。そういう自分を、今日の私は見逃せませんでした。
実際に、式典の日の私は、声が一段高くなって、笑い方も控えめになって、席の座り方までどこかぎこちなくなる。自分が自分じゃないみたいで、帰り道にどっと疲れる。
それって、服のせいだけじゃなくて、服に“正解”を背負わせた私のせい、なのかもしれません。
②楽天の商品ページを見ながら、なぜか泣きそうになる
会社に着いて、始業前の数分、私はデスクでこっそりスマホを開いて、晴れの日用のセットアップを眺めました。
いつもなら「どれが一番きちんと見えるか」「体型がきれいに見えるか」みたいなチェック項目で見てしまうのに、今日は違って、もっと別のところが刺さってしまった。
NOAHLのセレモニー用セットアップは、紹介文の中で「ハレの日も、自然体で。」というテーマが語られていました。
その一文を見た瞬間、私は少しだけ息が楽になって、同時に、変なところが痛くなりました。
自然体でいられないと思ってるの、私のほうじゃん、って。
そのセットアップは、かっちりしすぎるフォーマルが苦手な人でも着られる方向性で、普段のスタイルに“ジャケットをさっと羽織った”みたいに落とし込める、といったニュアンスで紹介されていました。
別の投稿でも同じ商品が「セレモニー スーツ セットアップ フォーマル パンツ」「ベージュ/ブラック」「M/L」といった形で並んでいて、式典のイメージはあるのに、押しつけがましくない雰囲気が伝わってきました。
正直、私はそのとき、服のディテールよりも、「自然体でいい」と言い切ってくれる空気に救われたんだと思います。
たぶん、晴れの日に私が一番怖いのは、服が似合わないことじゃなくて、「ちゃんとしてる私」を演じている自分を、周りに見透かされること。
演じてることを責められるのが怖いし、演じてる自分を自分で見たくない。だから鎧に頼る。でも鎧は重い。
わかる…って、こういう“自分で自分を縛る感じ”、あるよね。
③小さな出来事:鏡の前で、ボタンを留めなかった

お昼休み、トイレの鏡の前で、私は自分のジャケットのボタンに指をかけました。
今日は式典の日じゃないのに、なぜか気持ちが式典寄りになっていて、ボタンを留めたら落ち着く気がしたんです。変だよね。
でも、指先がボタンに触れた瞬間、私はふっと、留めるのをやめました。
理由は大げさじゃなくて、ただ「息がしやすいほうがいい」と思ったから。
ボタンを留めると、胸のあたりが少しだけ締まって、姿勢はよく見えるけど、その“よく見える”のために、私は呼吸を浅くしてしまう癖がある。
私はいままで、晴れの日に限って、呼吸まで浅くして、きちんと見える自分を守ってきたんだな、とそこで気づいて、ちょっと恥ずかしくなりました。
この恥ずかしさは、自己肯定感がどうとか、そういう大きい話じゃなくて、もっと生活に近い、洗濯物の乾き具合みたいな恥ずかしさです。
「またやってるよ、私」っていう、静かな自嘲。
ボタンを留めないまま席に戻って、私は同僚にこう返しました。
「ネイビーもいいけど、あえて“自然体でいける”セットアップ探してる。息できるやつ。」
それだけで、ちょっとだけ肩が落ちました。良い意味で。
夜、帰宅して電気ポットを沸かしながら、私はもう一度、例のページを開きました。
今日の私は妙にしつこくて、たぶんそれは「服の話」に見せかけて、実は“自分が縮こまる瞬間”を見張っていたかったからだと思います。
商品ページの断片的な文章の中に、「ウエスト切り替えのギャザーによるペプラムシルエットがオトナ可愛いベスト」という説明がありました。
ベスト。ジャケットほど強くないけど、カーディガンよりは輪郭が出る、あの中間。
私はその“中間”という存在に、今日は妙に気持ちが寄ってしまいました。
たとえば、いきなり完璧なスーツを着ると、私の中の“模範生スイッチ”が入ってしまう。
模範生スイッチが入ると、会話が上手くなるどころか、逆に安全な言葉しか言えなくなる。
「お疲れさまです」「すごいですね」「勉強になります」みたいな、正しいけど薄い言葉が、私の口から勝手に出てくる。
それがたぶん、私が晴れの日にいちばん嫌になる瞬間です。祝う気持ちが、どこかで置いてけぼりになって、私は“印象を落とさないための人形”になる。
ベストなら、もう少し揺れながら行けるのかな。
ウエストの切り替えとギャザーって、体を「細く見せる」ためだけじゃなくて、呼吸に合わせて布が動くための仕掛けにも見える。
伸縮性はない、裏地もない、と書かれていて、その潔さが逆にいいなと思いました。
「ここは守らないよ」「これは鎧じゃないよ」と言われているみたいで。
それに、サンドベージュは“やや透け感あり”とあって、私はその透け感に、なぜか正直さを感じました。
フォーマルって、全部を隠して、全部を整えて、隙をなくす方向に寄りがちなのに、少し透けるって、なんだか「私は私でいます」を残してくれる。
もちろん現実的にはインナーを選ぶ必要があるし、写真にどう映るかも気になるんだけど、それでも、完璧に閉じない布は、今日の私にとっては救いでした。
私はクローゼットから、数年前に買ったかっちりしたジャケットを引っ張り出して、ハンガーにかけて、しばらく眺めました。
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そのジャケットは悪くないし、むしろ仕事では頼りになるのに、式典となると急に“私じゃない感”が出てくる。
布の硬さのせいなのか、肩パッドのせいなのか、あるいは私の思い込みのせいなのか、わからない。
でも、わからないまま「まあこれでいいや」と決めると、その“わからない”が当日に残って、私は当日、ずっと自分を疑うことになる。
ここまで書いて、私の今日の小さな気づきは、たぶんこういうことです。
晴れの日の服を選ぶとき、私は「きれいに見せる」より先に、「自分を疑わなくて済む形」を探している。
疑わなくて済む形って、つまり、息ができる形で、言葉が固くならない形で、距離が縮む余白が残る形。
そしてその余白は、たぶん、服の“中間”に宿る。
スーツの正解から半歩だけ外れたセットアップやベストや、ジャケットの代わりになるもの。
NOAHLのセットアップが「普段のスタイルに落とし込んだ」雰囲気で紹介されていたのも、そういう余白の話なんだと思います。
……とはいえ、私はいまもまだ、完全には決められていません。
ベージュかブラックか、パンツの丈はどうするか、靴は何にするか、バッグは手持ちでいいのか。
決めきれない自分に、ちょっと呆れてもいます。
でも、今日の私は、決めきれないことを「だらしなさ」だと思わなかった。
むしろ、慎重に息の通り道を探している感じがして、少しだけ、悪くないと思えました。
明日、また同僚から何か言われたら、私はきっと笑って誤魔化すと思う。
「まだ迷ってるんだよね」って。
その“迷ってる”を、前みたいに恥だと思わずにいられるかどうか。
晴れの日スーツって、結局そこを試されるのかもしれません。
あなたはどうだろう。
晴れの日の服を前にしたとき、いちばん怖いのは何ですか。
似合わないこと? 浮くこと? 写真に残ること?
それとも、ちゃんとしてるふりをする自分に、自分が疲れてしまうこと?
私はたぶん、最後のやつがいちばん怖い。だから今日、ボタンを留めなかったんだと思います。






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